民法の一部改正(債権)⑤消滅時効
鹿児島市の行政書士安田事務所です。
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民法の一部改正(債権)消滅時効に関する見直し
消滅時効とは・・権利を行使しないまま一定期間が経過した場合に、その権利を消滅させる制度 ⇔ 時効取得
意義
①長期間の経過により証拠が散逸し、自己に有利な事実関係の証明が困難となった者を救済し、法律関係の
安定化を図る。
②権利の上に眠るものは保護しない。
例・・・債権者Aは、平成27年4月1日、債務者Bに対して、平成10年に貸した1000万円の返済を求めた。
債務者Bは、平成15年ごろまでに1000万円を分割返済したことから、その領収書等を捨ててしまっている。
検討課題
①職業別の短期消滅時効の見直し・・・時効期間と起算点の見直し(シンプルに統一化)
②生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間を長期化する特則の新設・・不法行為債権に関する長期
20年の期間制限を除斥期間とする解釈(判例)の見直し
③その他、時効の完成を阻止するための手段(時効の中断・停止)の見直しなど
時効期間と起算点に関する見直し
問題の所在
1、職業別短期消滅時効の廃止の必要性
①職業別の短期消滅時効(現170関する~174条)は、ある債権にどの時効期間が適用されるれるのか、複雑で
分かりにくい。
②1~3年という区分も合理性に乏しい(母法国のフランスでも2008年に廃止)
2、時効期間の統一化に当たって
①時効期間の大幅な長期化を避ける必要
②単純な短期化では、権利行使できることを全く知らないまま時効期間が経過していまうおそれ
改正法の内容
①職業別の短期消滅時効はすべて廃止
②商事時効(5年)も廃止
③権利を行使することができる時から10年という時効期間を維持しつつ、権利を行使することを知った時
から5年という期間を追加(新166条)・・・いずれか早い方の経過によって時効完成
②生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間の特則、
不法行為債権に関する長期20年の期間制限の解釈見直し
損害賠償請求権・・・不法行為により生じる(①~③のほか、債務不履行によって生じる(②・③)。
例①交通事故により死亡した(後遺症が残った)場合の加害者に対する損害賠償請求権
②炭鉱で安全配慮が不十分な粉じん作業に従事し、じん肺に罹患した労働者の雇用主に対する損害賠償請求権
③医療事故により患者が死亡した(後遺症が残った)場合の医療機関・医師に対する損害賠償請求権
問題の所在
①生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間
○生命・身体は重要な法益であり、これに関する債権は保護の必要性が高い。
○治療が長期間にわたるなどの事情により、被害者にとって迅速な権利行使が困難な場合がある。
②不法行為債権に関する長期20年の期間の制限の意味
①除斥期間と解釈すると、不都合な結論に至ることがあり得る。
改正法の内容①
○生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間
・人の生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効期間日本ついて長期化する特設を新設。(新167,724-2)
「知った時から5年」(不法行為につき3年から5年に長期化)
「知らなくても20年」(債務不履行につき10年から20年に長期化)
改正法の内容②
不法行為債権に関する長期20年の期間の意味
・不法行為債権全般について、不法行為債権に関する長期20年の制限期限が時効期間であることを明記。
(新724)
③事項の中断・停止の見直し・・・中断・停止概念の整理
時効の中断とは・・・法定の中断事由があったときに、それまでに経過した時効期間がリセットされ、改めて
起算されること。その事由が終了した時から新たな時効期間が進行する。
例:○債務者Bが債権者Aに対して債務を「承認」すれば、経過した時効期間がリセットされ、直ちに新たな
時効期間が進行する。
○債権者Aによる裁判上の請求(訴えの提起など)等があれば、時効期間がリセットされ、裁判上の確定等に
より新たな時効期間が進行する。
A,承認の場合(現147③)
例:債務者Aは、債務者Bに対して1000万円貸している。Aが返還を請求したところ、Bは、債務の存在を
前提に100万円の一部弁済した。
B、裁判上の請求(現147①,149)
例:債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、全く返済してもらえない。AはBに対して1000万円
の支払いを求めて訴えを提起した。
C、催告の場合(現147①、153)
例:債権者Aが債務者Bに対して内容証明郵便等により裁判外で貸付金1000万円の返済を請求した(=催告)
場合、時効は中断するが、その後6か月以内にAが訴えの提起等の法的手段をとらなければ、時効の中断の
効力が生じないことになる。
D、裁判上の催告(判例による解釈)
訴えの提起があると時効は中断するが、条文上は、訴えの取下げがあると遡って中断しなかったことになる
(現149)。
もっとも、判例は、訴えが取下げられた場合でも、それまでの間は催告が継続していたと認め、取下げから
6か月については時効の完成が猶予されているものとして扱っている。
例:債権者Aは、債務者Bに対して1000万円貸しているが、貸付から9年8か月後にBに対して1000万円の支払い
を求めて訴えを提起した。訴え提起から3か月後、Aは訴えを取り下げることにしたが、訴え取り下げ後3か月
して、Aは、再度訴えを提起した。
時効の停止とは・・・時効が完成する際に、権利者が時効の中断をすることに障害がある場合に、その障害が
消滅した後一定期間が経過するまでの間時効の完成を猶予するもの。
問題の所在
○「中断」の制度が複雑で分かりにくいのではないか。・・・中断効果としては「完成の猶予」と「新たな時効
の進行」の2つがあるが、それぞれの効果の内容も発生時期も異なることから、新たに2つの概念を用いてわかり
やすく整理すべきではないか。・・・停止についても、中断の見直しと併せて整理すべきではないか。
○裁判上の催告に関する判例法理を明文化すべきではないか。
改正法の内容
○多岐にわたる中断事由について、各中断事由ごとにその効果に応じて、「時効の完成を猶予する部分」は完成
猶予事由と、「新たな時効の進行の部分」は更新事由と振り分ける。
・承認・・・・・・・・更新事由(新152)
・裁判上の請求など・・完成猶予事由+更新事由(新147)
・催告・・・・・・・・完成猶予事由(新150等)
○停止事由については、「完成猶予」自由にとする。(新158~161)
天災等による完成猶予期間伸長、問題の所在①
○天災等による「停止」の期間が短すぎるのではないか・・・障害が消滅してから2週間(現161)
協議による時効完成の猶予、問題の所在②
○当事者が裁判所を介さずに紛争の解決に向けて協議をし、解決策を模索している場合にも、時効完成の
間際になれば、時効の完成を阻止するため、訴訟を提起しなければならない。・・・紛争解決の柔軟性や
当事者の利便性を損なうものであり、新たな完成猶予事由を設けるべきではないか。
改正の内容
○天災等による時効の完成猶予の期間(障害が消滅した後の猶予期間)を伸長する(現在の2週間から
3か月へ)。(新161)
○当事者間で権利についての協議を行う旨の合意が書面又は電磁的記録によってされた場合には、時効の
完成が猶予されることとする(新たな完成猶予事由とする。)。(新151)